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ゴムの配合物性値予測AIシステムを聞く

【インタビュー】横浜ゴム理事・研究先行開発本部材料機能研究室エグゼクティブフェロー・研究室長 網野直也氏

ラバーインダストリー 2021-06-02


 横浜ゴムがAIの活用を進めている。2020年にデジタル革新のためのAI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」を策定。同年12月には,AIを活用したゴムの配合物性値予測システムを独自に開発し,タイヤ用ゴムの配合設計において実用を開始した。同システムについて,横浜ゴムの網野直也理事・研究先行開発本部材料機能研究室エグゼクティブフェロー・研究室長に話を聞いた。

AIを活用したゴムの配合物性値予測システムとは

 タイヤに使うゴム(コンパウンド)は,合成ゴムや天然ゴムだけでなく,カーボンブラックやシリカといった補強剤,加硫促進剤や老化防止剤など様々な原材料が配合されている。どの種類のゴムを用いて,どの補強剤や加硫促進剤等をどのくらい配合するかという組み合わせは,それこそ無限に存在し,従来の配合設計では,設計者が過去の様々なデータを活用しながら配合を組んでいた。

 開発したゴムの配合物性値予測システムは,例えばAが100,Bが20,Cが50といった具合に,配合する材料とその量,つまり配合レシピを入力すると,そのレシピによって実際にゴムを混合した際に得られる物性値をAIが予測して出力するアプリケーションだ。物性値は,例えばゴムを引っ張った際に発生する力,ゴムがどのくらい伸びるかや転がり抵抗に関連するエネルギーロスの量,加硫速度の指標など34種類出力される。

 一方で,入力できる原材料は600種類ほどある。同じ品種の合成ゴムでも,生産する企業やグレードによって物性は異なるため,違う原材料として入力できるようにしている。

 ゴムの配合設計者は,例えばAという配合剤を10,20,30,40といった具合に変量した際に,物性値がどのように変化するかというグラフを持っており,配合設計の際には,それを用いて物性値を予測する。もちろん,その変化が他の配合剤との組み合わせによって,リニアな関係にならなかったり,あるところから急に物性値が変化したりすることもある。その点についてもきちんと学習させると,AIは予測できるようになっている。

 AIに学習させたのは,社内に蓄積された膨大な実験データだ。過去のデータを10年分学習させ,1つの物性に対して数万件のデータを覚えさせている。

 開発に着手したのは4年前だ。AIの発達と社内に蓄積された実験データとを組み合わせて活用できると考えた。実験データを共有することで,配合設計者の経験の差に関わらず,誰もが同じ答えにすぐ辿り着けるようにするべきではないかと考え,システムの開発に至った。

 4年前に描いたところには,近づいてきている。今は34種類の物性値を予測するが,2種類の答えがきちんと当たるかの確認から始め,その後予測できる物性値の数を増やしてきた。

 システムは開発者個々人のパソコンからアクセスできる。将来的には海外の拠点でも使えるようにしたいと考えている。

 また,タイヤ用ゴムだけでなく,ホースやコンベヤベルトといった工業用品に用いるゴムにも活用できる。タイヤと工業用品とでは,使用する配合剤がいくつか異なるので,工業用品にしか使わない原材料についても学習させている。

システムを活用することで,開発期間はどのくらい短縮できるのか

 従来は,ゴムを混合し様々な試験を行って,最終的に物性値が全て出揃うまでに1カ月ほどを要した。今回のシステムを活用すると,パソコンで配合レシピを入力すれば瞬時に物性値が出てくる。レシピを入力し,目標とする物性値が少しずれていたら,レシピを少し修正し再び予測させるといった具合に,仮想上の実験が数分でいくつもできるようになる。新しいレシピを評価するスピードは非常に速くなると考えている。

 目標とする物性値に対する配合の当たりはつけやすくなる。一度の実験で目標の物性値にピタリとはまることは中々なく,従来は実験を二度,三度と繰り返していたが,その実験回数を減らすことができると期待している。

(次ページ:「さらなる進化に向けて」)

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