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震災から10年―ゴム・樹脂業界から見た防災、復興、被災地支援

藤倉コンポジット、東日本大震災で被災した実体験活かす

ラバーインダストリー 2021-04-22

ゴムのノウハウが活かされ高性能に


 ワットサットやアクアチャージに使用されているマグネシウム空気電池方式は「昔からある発電方式で、電池として活用したのは当社が初めてでもなく、他社に同様な製品もある」(同)。ただ、藤倉コンポジットの製品が他社品に比べ電池としての性能が高い背景には、同社が従来から有するゴムの技術が活きている。

 マグネシウム空気電池の開発は、「ほぼゼロからのスタートで、電池に関するノウハウはなく、自分たちで考え開発を進めた」(同)という。マグネシウム空気電池には正極と負極が存在するが、「初めは電極の作り方すら知らなかった」(同)ため、ワットサットやアクアチャージは空気極と呼ばれる正極の製法が、従来の電池メーカーの製法とは全く異なる。藤倉コンポジットの製法は、同社が従来から有するゴムの膜やシートを作る際の製法に似たもので、この得意技術を活かし他社と全く異なる製法で作ったことにより、他社品に比べ正極の性能が高い電池となり、この性能の高さがフル充電までの時間の短さにも繋がっている。

 目下の課題は認知度の向上。「水を入れるだけでスマートフォンに充電できるということを人々に広めていきたい」(同)。

大型化やセンサとしての活用も視野

 ワットサット、アクアチャージで得た知見を活かし、現在はより大きな非常用マグネシウム空気電池の開発を進めている。発電機の代替として活用されるくらいの大きさで、製品化にはコストなど乗り越える課題もあるが、「携帯電話の基地局やデータセンター、病院といったバックアップ電源をすでに有している施設のバックアップ電源が尽きた後、つまりバックアップのバックアップ」(同)として注目を浴びているという。

 マグネシウム空気電池は、環境負荷の少ないエネルギー源という側面も持つ。マグネシウムは海水に一定量含まれていることに加え、電池として使用し水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムに変化した後、それらに熱を加えると還元し、再び元のマグネシウムに戻すことができるためだ。循環型のクリーンなエネルギー源として、「SDGsの考え方にも上手く対応できる」(同)。藤倉コンポジットは「マグネシウム循環社会協議会」に所属し、循環型のクリーンなエネルギー源として活用する検討を進めている。

 大型化以外の発展形にも期待を寄せる。水に触れると発電するという特徴を活かしたセンサとしての活用だ。例えば、建築分野では漏水検知などが視野に入る。「最新のビルにおいても、雨漏りや漏水は意外と起きると言われている。マグネシウム空気電池の技術を活かしたセンサは、それ自体が発電するため電源が不要で、漏水等が心配される箇所に置いておくだけで良い。漏水等で水に触れた際に発電した電力で電波を飛ばし、検知した漏水を知らせることができる」(同)。また、水だけでなく血液や尿でも発電できるため、医療介護現場での活躍も期待される。「例えばパッチくらいの大きさにコンパクト化し、尿に触れることでおむつの交換時期を知らせる、人工透析中などでの血液の漏れを検知するといった用途があると考えている」(同)。

 マグネシウム空気電池方式は決して最新とは言えない技術だが、自社が保有するゴムの技術を活かしブラッシュアップすることで、電池としての性能を高め、さらに別の展開を模索する藤倉コンポジット。東日本大震災で被災したことにより抱いた、「災害に対応できる製品を開発したい」という想いによって確立した新たな技術は、これからも多くの現場で様々な貢献をしていくだろう。

 「AQUA Charge」特設ページ:https://www.fujikuracomposites.jp/aquacharge/

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