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加硫ゴムとTPEの長所兼ねる

JXエネルギーが新開発エラストマー「射出成形できるゴム」

原材料 2016-02-29

展示会に向けて作製した製品サンプル

展示会に向けて作製した製品サンプル


 日本の大手石油元売企業JXエネルギーが、新発想のメカニズムを用いた新しいエラストマー「射出成形できるゴム」を開発した。3種類の架橋によって、加硫ゴムとTPE(熱可塑性エラストマー)の長所を兼ね備えた新エラストマー。今回、開発の背景や今後の展望などを取材した。
 

3種類の架橋で性能発現

 新開発エラストマー「射出成形できるゴム」は、オレフィン系原料に「3種類の架橋」という新発想のメカニズムを用いることで、①加硫ゴム(EPDM)とほぼ同等の圧縮永久歪性②加硫工程が不要で射出・押出成形が可能③リサイクル使用が可能④幅広い硬度ラインアップ⑤配合自由度が高く、着色も可能―を実現。加硫ゴムとTPE、それぞれの長所を兼ね備えた製品となっている。

 加硫工程を不要としたことで、一般にゴム製品の製造コストでおよそ3分の1を占めるといわれる加硫コストを削減することができ、トータル部品コストの大幅な削減に貢献する。硬度(JIS-A)は20度から90度まで選択が可能となっており、オーダーメイドに近い感覚で、任意の硬度に細かく対応することができる。

 耐熱性は120度と、熱可塑性のため高熱にはそれほど強くはないが、ガラス転移点(TG)は低く、マイナス40度の環境下でもゴム性能を維持することができる。また、組成によって異なるが、比重はおよそ0.88と、1.3程度の加硫ゴムよりも軽く、製品の軽量化に寄与する。

 新開発エラストマーは、TPEで一般的なソフトセグメントとハードセグメントといった組織構成から離れた、新発想のメカニズム「3種類の架橋」をオレフィン系原料に施すことで、性能を発現させた。

 3種類の架橋とは、圧縮永久歪性を良くする「化学架橋」、流動性を良くする「物理架橋」、全体をまとめる「第3の架橋」―を指す。

 第3の架橋が、相反する性能である圧縮永久歪性と流動性の良さのバランスを高い次元で実現した。この発想はオレフィン系原料だけでなく、他の原料にも応用することが可能で、今後の拡がりも期待できるという。なお、3種類の架橋によってエラストマーを作り出す製法は世界初で、特許出願中。
 

加硫不要でコスト削減

 新エラストマーの開発に携わった、JXエネルギー機能化学品カンパニー研究ユニット原料合成グループの担当者に話を聞いた。

 ■開発の背景
 「JXエネルギーはエラストマーの原料を多数有しており、社内で川下となるエラストマー分野への研究を進めていこうという流れがありました。機能化学品事業は2014年4月に社内カンパニー制へと移行し、その川下戦略のひとつとして、エラストマー開発プロジェクトがスタートしました。本格的に着手したのは約1年前からですが、アングラ実験で基本的なメカニズムは確認できていたので、新発想のメカニズムにJXエネルギーの持つエラストマー原料を合わせ込み、比較的短期間で開発することができたと考えています」

 ■生産計画について
 「2020年に生産能力100トン/年を計画しています。生産は外注と自社工場の両方を検討しており、まだ正式には決定していません」

 ■今後の展開
 「開発品のため、まだ明確な用途は定まっていませんが、加硫ゴムの領域に入っていけるエラストマーは他に例がないと思っています。これまで加硫ゴムでしか作ることができなかったところに踏み込んでいきたいと考えています。リサイクルできない加硫ゴムに対し、新開発エラストマーはリサイクルが可能です。製造工程で出てしまうバリの再利用もできますので、そうした部分を含めてコストメリットの生かせる分野に展開していければと考えています。ただ、価格競争の激しいところに入っていくつもりはありません。高付加価値を生かせる場所、汎用品ではなく嗜好品の分野などでも勝負していきたいと思っています。

 『TPEに付加することが難しかった耐圧縮永久歪性、加硫ゴムにはないリサイクルが可能』という強みを生かし、TPEや加硫ゴムでは作りたくても作ることができなかった、未開拓の分野にも入っていきたいと思っています。ただ、用途・販路を探していくのがとても難しいので、今後の課題です。

 また、市場として海外展開もできれば理想的ですが、まずは国内から着実に取り組んでいきます。

 現状、さまざまな用途での展開を模索していますが、将来的には量の規模が大きい自動車用途に向かっていくのではないでしょうか。ただ、自動車分野はコスト要求が厳しいので、量産体制が整ってからの話になると思います」

 ■反響
 「サンプルを出荷していますが、反応は良好で、特に物性に興味を示される方が多いです。新エラストマーは、今年1月に東京ビッグサイトで開催された『オートモーティブワールド2016』で初めて公に紹介しましたが、反響が大きかったです。新開発エラストマーで製品を製造する場合には、加硫ゴムの製造装置ではなく、射出成形機や押出成形機での製造となります。現在、加硫ゴムメーカーの方からの引き合いも多いですが、加硫ゴムの製造装置しかお持ちでない場合には、新開発エラストマーを使用した製品を製造することはできず、射出成形機や押出成形機といった設備を導入していただくことになります。ですので、まずは射出成形機、押出成形機を設備としてお持ちになっているメーカーからアプローチすることになります。そこでフィードバックを重ね、どこかで本格的に採用が決まった段階で、正式に上市する計画です」

 ■新たな性能の付加
 「耐油性や発泡性の改善、抗菌・防カビ性の付加など、テーマを持って、日々研究しています。発泡性は軽量化や材料コストダウンに繋がります。また、改質用途としても可能性がないわけではありません。ただ、改質用途は当社だけではできませんので、ユーザーとのタッグが必要になります」

 製品についての問い合わせは、〒100―8162 東京都千代田区大手町1丁目1番2号 JXエネルギー機能化学品カンパニー開発企画ユニット開発企画グループ電話03・6257・4462まで。

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