連載コラム「白耳義通信」67
「ジョスカン・デ・プレ」
連載 2022-04-25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、日本と欧州を結ぶ飛行ルートに影響が出ているようです。わたしが日本と欧州を行き来するようになった90年代後半は、既にロシア上空を通過するシベリアルートが一般的でした。それ以前は、アンカレッジ経由の北回りルートがお馴染みだったようですが、それより古いルートがあったことをこの度、初めて知りました。それが南回りルートと呼ばれるもので、香港、シンガポール、インドネシア、フィリピン、インドを通過するルートだったようです。しかしこのルートは、中東上空を通過する為、安全に問題があることから1960年頃から北回りルートに移行されたようです。
現在のヨーロッパ線の迂回ルートは、往年の南回りルートとは若干違いますが、日本発の飛行時間が3時間30分、欧州発の飛行時間が2時間、以前より伸びることになります。しかし安全にはかえられません。因みに、全ての航空会社が南回りルートではなく、北回りルートを採用しているところもあり、日本発で2、3時間、欧州発で4時間程、飛行時間が伸びるようです。
さて、このコラムではわたしの専門である「音楽」について余り取り上げることがありませんでした。それは、日本で知られているベルギー出身の作曲家がいないことが理由です。ただ最近、バチカンのシスティーナ礼拝堂の改修工事で、フランドル楽派のジョスカン・デ・プレ Josquin Des Prez の名前が明らかになったということで、今回取り上げたいと思います。
ジョスカン・デ・プレは、今から500年前の作曲家。このコラムで取り上げたことのある初期フランドル派の画家・ヤン・ファン・エイク Jan van Eyck が亡くなった後に生まれ、16世紀を代表するフランドルの画家・ピーテル・ブリューゲル Pieter Bruegel は、未だ生まれていません。つまりレオナルド・ダ・ヴィンチや、デューラー、ミケランジェロの時代に生きた作曲家です。
デ・プレは、存命中から高い名声を得ており、ヨーロッパ各地の宮廷に招かれ、教皇や王のために歌い、作曲していました。そしてミラノでレオナルド・ダ・ヴィンチに出会うのです。そこで描かれたのが「ある音楽家の肖像」と言われています。
今回システィーナ礼拝堂でデ・プレの名前が見つかったのは、礼拝堂のバルコニーにある「カントリア」と呼ばれる歌手が立って歌う場所にあった碑文の中です。自分で作品を書き、自分で演奏し、王族のお気に入りだったデ・プレ。さしずめルネサンスのエルトン・ジョンと言えるかも知れません。
ジョスカン・デ・プレに興味を持たれた方には、「ジョスカン・デ・プレとフランドル楽派」という34枚組の CD がお薦めです。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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