連載コラム「白耳義通信」48
「アントワープ五輪から100年」
連載 2020-09-17
鍵盤楽器奏者 末次 克史
日本・ベルギー間の直行便は、10月末まで運休・延長されることが、先日発表されました。ここ数日、欧州における新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が再び増加傾向にあります。比較的天気が良かったこの夏。痺れを切らした人々がバカンスへ出掛け、学校が始まり、感染が拡大した模様です。年内のベルギーへの旅行は難しい状況になりつつあります。
本来なら2020年夏、東京2020オリンピック競技大会が開催され、世界中から人々がやって来て、日本中が五輪一色になる筈でした。パラリンピック競技大会は9月6日閉会式でしたから、この記事を書く頃も、五輪の余韻に浸っていたことでしょう。
今から100年前の1920年といえば、今年と同じように世界中でスペイン風邪が流行した年でもありました。1918年パンデミックと呼ばれるように、3年に渡って人々を苦しめたことになります。そんな最中、ベルギーのアントワープ(Antwerpen / Anvers)で開かれたのが、第7回オリンピック競技大会でした。前回1916年ベルリン大会は第一次世界大戦の真っ只中。1912年ストックホルム大会以来、8年振りに平和の祭典が開催されたわけです。
ただ、この当時のベルギーは第一次世界大戦で莫大な被害を被っており、とてもオリンピックなど開催できる状態ではありませんでした。そんなベルギーに同情を寄せたIOCは「団結と復興の象徴」と位置付け、ベルギーで開くことに決定したわけです。
このアントワープ五輪では、オリンピックのシンボルである五輪旗(青・黄・緑・黒・赤からなるリング)が初めて掲げられました。しかし今のようにテレビが全世帯にあるような時代でもなく、また衛星中継が行われているわけでもなく、人々の関心はそれほど高くはなかったようです。入場料も、戦争のせいで食べる物にも苦労している一般庶民が、気安く払えるような金額でもありませんでした。
また競技場も、戦後物資の不足している中、急ピッチで仕上げられたので、選手が自分の能力を最大限発揮できるような環境でも無かったようです。そんな悪環境の中、日本の五輪第1号メダルが獲得されたのが、このアントワープ大会でした。テニス男子シングルスで熊谷一弥選手が手にした銀メダルです。先日のニュースで、このメダルが「貸したきり戻らず…」と伝えられていました。依然行方不明のままのようです。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、新国立競技場建設を巡る問題に始まり、エンブレム騒動(これはベルギー人デザイナーが提訴。後、訴えを取り下げ)、ボランティア・ユニフォームの変更(旧デザインは、世界三大ファッション学校である、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーを卒業した方でした)、マラソン・競歩の開催地変更、そして2021年に延期。と、ここまでは暗雲が立ち込めていますが、来年の夏こそは、明るいニュースで埋め尽くされていて欲しいものです。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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