連載コラム「白耳義通信」40
「ベートーヴェン・イヤー」
連載 2020-01-16
鍵盤楽器奏者 末次 克史
突然ですが、中学校の音楽室を思い出してください。カツラを被った作曲家(バッハやヘンデル)から右へ数枚先、振り乱した髪に厳つい顔をした肖像画が飾れてなかったでしょうか。「楽聖」とも呼ばれているルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン Ludwih van Beethoven の姿です。
今年はベートーヴェン生誕250周年にあたりベートーヴェンが生まれたドイツ、それから活躍したオーストリアを始め、日本、ベルギーなど世界各国で記念コンサートが開かれます。出版業界もこの流れに乗り遅れまいと、新たに校訂されたベートーヴェンの楽譜や関連本が続々出版されています。
ドイツのボン(Bonn)で生を受けたベートーヴェンですが、実は現在わたしが住んでいるベルギーのメッヘレン(Mechelen)と繋がりがあります。実はベートーヴェンのお祖父さん(名前もベートーヴェンと同じくルードヴィッヒ)がメッヘレンの出身なのです。
家は残っていませんが、住んでいたであろう場所はベートーヴェン通り(Van Beethovenstraat)と名付けられ、近くの広場にはベートーヴェンの銅像が立っています(後ろにはベルギーのカトリックの総本山、聖ロンバウツ大聖堂 Sint-Romboutskathedraal も見えます)。
日本では年末になると第九が演奏されますが、こちらでは12月に限ったことではありません。それより最終楽章の「歓喜の歌」が「欧州の歌」として採用され EU の式典では必ず演奏され、ヨーロッパの象徴としての役割を果たしています。
数々の作曲家の生誕、没後を記念して様々な催し物が行われますが、ベートーヴェン・イヤーで特筆すべき点は6月21日に行われる交響曲の全曲演奏会でしょうか。ベートーヴェンは9つの交響曲を作曲していますが、一つの会場で演奏するのではなく、13時にベートーヴェンが生まれたドイツのボンで交響曲第一番により幕を開けた後、リレー形式でヨーロッパ各国を回ることです。16時にはベルギーのブリュッセルで交響曲第四番が演奏され、21時からオーストリアのウィーンで交響曲第九番を以ってフィナーレを迎えます。
イギリスの EU 離脱問題に始まり、数々の問題を抱える欧州ですが、高らかに歌われる「歓喜の歌」が域内の多様性の中に自由、平和、結束を再び見出す切っ掛けになることを願ってやみません。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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