連載コラム「白耳義通信」30
「ベルギー人が見た日本」
連載 2019-03-15
鍵盤楽器奏者 末次 克史
ここのところ春の嵐が吹き荒れているベルギーです。今年に入って日本でベルギー人を案内する機会があったので、その時印象に残ったことを書き留めておきたいと思います。来年は東京オリンピックが開催され、海外から日本を訪れる人が過去最高を記録されることも予想されますが、何か参考になるでしょうか。
先ず見た目の印象からいきましょう。公共の場所が綺麗というのは、多くの人が指摘するところです。数年前、台風の影響で地下鉄が水没した様子がネットに紹介されたことがありました。水は濁っておらずまるで泳げるようだとの声も。それだけに電車などから目に入ってくる景色に驚いたようです。人が沢山行き交う場所は綺麗なのに、家の壁、公園の遊具、ガードレールなどが錆びついていて、「何故塗り替えないのだろう?」という意見です。
わたしも日本に住んでいる時は「ああ、老朽化しているんだ…」位の印象で、そこまで意識をしたことは無かったのですが、確かに言われると目立ちます。「日本人は新しい家を建てるけれど、建てっぱなしで壊れるまで手入れをしないのだろうか」と言われ絶句してしまいました。維持費の問題もあるのでしょうが、我が家を大切にするベルギー人からすると考えられないようです。ベルギーは公共の場所は問題があるけれど、私的な場所は綺麗というのは国民性の違いでしょうか。
次に大きく困った問題を二つ挙げましょう。一つはベルギーと違って、公共の場所にトイレが沢山あるのは助かるのですが、未だに和式トイレが多いという点です。これには相当困られたようです。日本人も最近は様式、しかも便座は温かく、ウオシュレット付きが当たり前の世界になっていて、今更和式で用を足すのは難しい人も増えているのではないでしょうか。公共の場所にあるトイレ全てを洋式にするのは予算の問題もあるでしょうから、せめて駅のトイレは全て洋式にして貰いたいものです。
もう一つはカードを使える店が少ないことです。大手百貨店は問題無いのですが、個人が経営する店では、海外に於いてポピュラーなクレジットカードが使えないところ多く、折角欲しい物があっても買えない、食べられないことが何度か有りました。クレジットカードは使えないのに、今年に入って話題になったスマホ決済ができたりと、日本独自のシステムが出来上がっているのでしょう。
一番驚いたのは、成田空港の東京オリンピック公式グッズショップで、公式スポンサーではないクレジットカードが使えないことでした。「開会式で映るであろうマスコットのぬいぐるみを孫に買ってやりたい」と楽しみにされていたのですが…。商業五輪になって四半世紀以上経つわけですから当然のことかも知れませんが、「五輪精神に反しているのでは?」という感想を残されて機上の人となったのは残念でなりません。
新幹線の車両の中でもされる日本式の挨拶(おじぎ)へ非常に感銘を受けられたようですが、日本人の思う「おもてなし」と、海外からきた人の目に移る「おもてなし」とでは、少しばかり温度差があるように感じた一時となりました。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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