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連載コラム「白耳義通信」㉒

「ベルギー人」

連載 2018-07-12

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 この記事を書いている現在、2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会の準決勝ベルギー対フランスの結果は分かっていない。この試合に勝つとベルギー史上初めてワールドカップ決勝の舞台へ進むことになる。ベルギー中ここまで沸いているのは建国以来、初めてのことかも知れない。

 そもそもベルギー王国はオランダから独立する為に、普段話している言葉も違う民族が、カトリックの信仰という唯一の共通点を元に手を結んで作られた国とも言える。独立後公用語になったのはフランス語であり、オランダ語圏の人にとっては耐えられない時代が暫く続いた。

 ベルギー人に「あなたは何人ですか?」と質問しても自分が出身した街の名前を言うだろう。有史以来、この地に住む人々にとってベルギーに対する誇りが希薄なのは、歴史を遡れば当然のことでもある。

 ベルギーに住む人々がベルギーを国として意識した大きな出来事といえば1958年ブリュッセルで開かれた万国博覧会だと自分は思っている。それまでにも何度か開かれているとはいえ、それらはあくまでも一部の人々の為のものであったのが、この万国博覧会ではより近代化が進み、チョコレートという武器を持ったベルギーが世界に自国をアピールするようになった。年配の方の話しを聞くと「面白い万国博覧会だった」という人が多い。

 ただこれはあくまでも一時的なもので、その後はブリュッセルを中心とするその界隈の言語問題、北のフランドル地方と南のワロン地方の経済格差など、なかなかベルギー人として連帯を強めるまでには至らなかった。

 近年では1996年ブリュッセルで起こったベルギー史最大のデモ「白の行進」が挙げられるだろう。これは連続少女誘拐・殺人事件に端を発するもので、少女の追悼と司法に対する市民の怒りが爆発したデモ行進となった。普段話している言語に関係なく、ベルギーの国の在り方に対して疑問を投げかけ自然に和が広がって行ったということが正に「ベルギー人」なのかと、ベルギー人では無い自分は思っている。

 では質問を変えてみよう。「ベルギーに生まれて良かったですか?」と聞かれたらベルギー人は何と答えるのだろうか。もしワールドカップでベルギーが優勝したら初めて「ベルギーに生まれて良かった」と人々は思うのだろうか。その答えは数時間後にでる。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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