【特集】進化する製造業
日本ゼオン、全社共通IoT基盤を構築ーー全社横断でのスマート工場化を目指す
ラバーインダストリー 2026-03-16
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人手不足が深刻化する中で、ゴム業界においても業務のDX化を推進する動きが加速している。とりわけ大企業では、工場のスマート化を目指す動きも見られる。こうした中で日本ゼオンは2025年10月、全社共通のIoT基盤を構築し、高岡工場での運用開始を発表した。今回のプロジェクトを皮切りに、同社は全社横断でのスマート工場化に乗り出す。
スマート工場化に立ちはだかる セキュリティリスク
スマート工場では、工場にIoT機器を導入し、集めた製造設備のデータを利活用することで品質の向上や設備管理の効率化、故障予知保全に繋げる。
スマート工場を目指す上で、課題の1つにセキュリティ対策が挙げられる。例えば、インターネットのように世界中の情報機器が接続しているネットワークを経由して社内システムを連携させると、情報漏洩やデータの消失、不正アクセスといったセキュリティ上のリスクが高くなる。取得したデータをいかに保護するかは、スマート工場化を進めるうえで欠かせない要素だ。さらに、工場の“生産に関わる情報”がこうしたリスクに晒されれば最悪の場合、稼働を停止せざるを得なくなる。サプライチェーン維持の観点からも、スマート工場におけるセキュリティ対策は重要とされる。
このセキュリティリスクの課題を解消し、全社横断でのスマート工場化に踏み出したのが日本ゼオンだ。
情報通信網に“閉域ネットワーク”を採用

全社共通IoT基盤の概念図
中央のSORACOMはIoT基盤構築・運用サポートサービスを提供。
今回のプロジェクトでは、基盤の本番運用に向けたネットワーク設計・展開までを支援した
2025年10月、日本ゼオンは全社共通のIoT基盤を構築し、高岡工場での運用開始を発表した。この基盤の特長は、高いセキュリティを保ちながら、横展開のしやすさを実現したことにある。
同社はこれまで、プラント制御システムやその周辺の測定・監視システムといった各工場の“生産に関わるシステム”を、社内システムから切り離し独立させ、高いセキュリティを維持してきた。しかし、こうした方法は操業情報の利活用を進めにくいことが課題とされてきた。
「各工場の設備情報を全社共通システムに展開するためには、USBメモリなどの記憶装置に情報を取り込み、それを管理端末で読み取り転送しなければならなかった。これでは情報共有に時間と手間を要するため、工場のスマート化が進みにくかった」(デジタル統括推進部門デジタルシステム管理部 小林弘明氏)。
今回の共通基盤構築は、生産に関わるシステムの中でも“周辺の測定・監視システム(IoT機器)”を対象に実施した。「操業の周辺システムを対象に基盤構築することで、プラント制御システムなどの“操業に直接かかわるデータ”に触れずとも、データの収集と活用が可能になった」(同)。
通信網の整備も高いセキュリティの維持に不可欠だった。同基盤では、IoT機器から取得した情報を社内共通システムや研究所システムに共有する際の情報通信網に“閉域ネットワーク”を採用した。
閉域ネットワークとは、インターネットから切り離された独自の情報通信網を指す。特定の利用者と拠点でしか利用ができず、外部からはアクセス不能なため、安全な情報のやり取りを可能にする。
適切な閉域ネットワークの選定は、同基盤の“横展開のしやすさ”にも貢献した。閉域ネットワークにもいくつか種類があり、同社はその中でもセルラー通信の閉域ネットワーク(大手通信事業者の提供する閉域ネットワーク)を採用した。その特長は、原則として有線LANの敷設工事なしで、任意の場所にゲートウェイを設置するだけでネットワークを確保できるというもの。これにより、現場主導での設置、導入が可能となり、各工場への“横展開がしやすい”仕様に仕上がった。
巡回点検作業の削減
同基盤の国内全工場への導入にあたり、高岡工場でPoC(Proof of Concept)1を実施した。他の工場のニーズも踏まえ、「設備の動作監視システム」を構築した上でPoCを実施し、その成果を報告した。
実際に得られた効果として挙げられたのは、まず巡回点検作業の軽減。従来、巡回点検では設備に設置した管理端末を現場に都度確認しに行く必要があったが、同基盤の導入により遠隔管理が可能となった。また、常時監視が必要な一部工程でも現場従業員の作業負担軽減が確認されている。こうした効果について小林氏は「天候の悪い日の点検など、従業員の安全保護という観点でも同基盤を役立てることができそうだ」(同)と語る。
また、データを活用した設備保全に関しても「データから異常や故障の予知ができるので、設備の急停止を防ぐといった点でも効果が高いのではないか」(高岡工場担当者)と期待が寄せられているという。
高岡工場では、PoCを経て2025年5月に同基盤の本番運用を開始した。他の工場への展開については、「現在は国内各工場でPoCを進め、今期中には全ての工場への導入が完了する予定(取材当時2025年12月)」(同)だ。

日本ゼオン高岡工場
競うことで磨かれてきた各工場の生産性
「当社には良い意味での“競争文化”がある。各工場がそれぞれテーマを持ち、独自にDX化を推進することで生産性に磨きをかけてきた」
──同基盤構築の牽引役を務めた小林氏はそう語る。小林氏は今回の共通基盤構築にあたり、進行方法の決定からセキュリティ分野の外部専門人材の選定、各工場に対するヒアリング、PoC実施に際する工場への協力要請まで、プロジェクトのトータルコーディネートを担当した。同氏は、今回のプロジェクトを「従来は各工場で取り組んできたDXを全社横断で推進するという、これまでにない試みだった。2022年からスタートし、紆余曲折ありながらもようやく横展開まで漕ぎつけた。これを皮切りに全社でのスマート工場化を推進したい」(同)と振り返った。

デジタル統括推進部門
デジタルシステム管理部
小林弘明 氏
データ活用の先にある様々な可能性
今後の展開については、「競争文化により生産性を磨く体制も継続しながら、スマート工場化を目指す。例えば、その工場独自の課題解決を目指したDXの場合は横展開する必要はない。全社でやるべきこと、各工場で取り組むべきこと、それぞれを分けて考え、進めていく。また、取得したデータを“職人技”の伝承にも役立てたい。口頭では説明が不可能な領域を、データから理論立てて説明がつく状態に持っていくことで、人材育成や製品開発の効率化を図れるはずだ」(同)とその可能性の多様さに期待を寄せる。
今回の全社共通IoT基盤構築により、スマート工場化のスタートラインに立った日本ゼオン。そこから得られたデータの活用によって、同社のまだ見ぬ可能性が今後さらに引き出されていくだろう。
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