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思うように回復しない自動車、外的要因にも大きく振り回される

ゴム業界の2022年を振り返る

その他 2022-12-12

 2022年を振り返ると、これまで叫ばれてきた地政学的リスクが、顕著になった年だった。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染拡大に伴う中国のロックダウンは、ゴム業界に限らず世界経済を大きく揺さぶった。ゴム業界に目を向けると、主需要先の自動車の回復が進まない中、原材料やユーティリティコストが上昇する厳しい年だった。

 ■ロシアのウクライナ侵攻がゴム業界にも多大な影響
 2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、ゴム業界にも多大な影響を及ぼした。

 侵攻に対し、西側諸国が課したロシアへの金融制裁、輸出入規制などによって企業活動が制限されただけでなく、人道的見地も含め、ロシアからの撤退等が実施された。例えば、ゴム製品の主需要先である日系自動車メーカーでは、トヨタ自動車、日産自動車、マツダなどが相次ぎロシア市場からの撤退を表明。タイヤメーカーではロシアに工場を持つブリヂストンが、ロシア事業からの撤退を決定した。ブリヂストンは3月に、ロシアにある乗用車用タイヤ工場の稼働停止と新規設備投資の凍結ならびにロシア向けタイヤ輸出を停止していた。

 一方で、資源大国であるロシアへの制裁は、結果として原油や天然ガス、石炭などの高騰を招いた。原油の高騰は合成ゴムや副資材価格の、天然ガスや石炭の高騰はユーティリティコストの上昇に繋がった。足元だけでみると、原油価格は依然として高値圏にあるものの、一時期のパニック的な急騰からは落ち着きをみせている。ただ、ユーティリティコストに関しては、足元以上の上昇も見込まれており、来年にかけても厳しい状況が継続しそうだ。

 ■原材料、ゴム製品の値上げ相次ぐ
 2022年は原油・ナフサ価格、ユーティリティコストの高騰を受け、原材料価格の値上げが相次ぎ、それを受けたゴム製品の値上げも数多く実施された。

 合成ゴムや副資材価格の基準の一つである国産ナフサ価格は、4~6月にキロリットルあたり8万6,100円と、過去最高値を更新した。また、原料価格の高騰にとどまらず、スチームや電気などユーティリティコスト、物流費も大幅に上昇し、合成ゴムや副資材メーカーは製品の安定供給、事業の維持継続のため、値上げを余儀なくされた。複数回の値上げが実施され、合成ゴム、副資材の中には、足元の価格が過去最高値の水準にあるものも少なくない。

 例えば合成ゴム価格は、原料部分とそれ以外のベース部分に大きく分けることができるが、昨今の値上げでは、これまであまり触れてこなかったベース部分の見直しが、交渉ベースでも原料価格に合成ゴム価格が連動するフォーミュラでも実施された。ベース部分にあたる、ユーティリティコストや物流費、人件費、設備修繕費が、いかに高騰しているかがうかがえた。

 原材料価格やユーティリティコストの高騰を受け、ゴム製品の値上げも活発に行われた。製品価格に対する原材料部分の比率が大きいゴム板は、今年だけで2~3度の値上げを打ち出した。また、タイヤも年に2回(TOYO TIREを除く)の値上げが実施された。ベルト、ホース、各種工業用品でも値上げは実施され、むしろ値上げしなかった製品を探す方が難しい年だったのではないだろうか。

上海のロックダウンで海上輸送は大混乱


 ■新型コロナの影響が継続
 新型コロナの世界的な感染拡大からおおよそ3年。2020年に大きく落ち込んだ需要は回復傾向にあり、欧米などでは新型コロナに対する規制緩和も進んだが、一方で中国のゼロコロナ政策が世界に影響を及ぼした。

 最も大きな影響を及ぼしたのが、3月末から6月まで約2カ月にわたり実施された上海のロックダウン。世界的な貿易港である上海のロックダウンによって、海上輸送は世界的に大混乱に陥り、サプライチェーンが各所で寸断された。船便の確保が困難になっただけでなく、海上輸送費も急騰し、企業にとって大きな収益圧迫要因となった。混乱は足元ではおおむね解消され、中国のゼロコロナ政策も曲がり角を迎えている。ただ、今後の経済の波乱要因の中に、中国のゼロコロナ政策を挙げるゴム関係者は少なくない。それだけインパクトがあったためだろう。

ゴム業界の主需要先である自動車の生産は思うように回復しなかった


 ■思うように回復しない自動車生産
 2022年年初は自動車生産の回復とともに、ゴム業界も順調に回復していく。そうした絵を描いた人は少なくなかったように思う。ただ、ふたを開けてみると、半導体不足や部品調達難により自動車生産は思うような回復を遂げることができず、増産をアナウンスしながら減産を繰り返す自動車にゴム業界も大きく振り回され、一部では在庫が膨れ上がった。自動車生産は年末にかけ回復基調にあるが、来年に本格回復するかについては、懐疑的に見るゴム業界関係者も少なくない。

 ■歴史的な円安
 インフレ抑制を目指した米国の大幅かつ急速な利上げによって、円相場は大きく円安に振れた。10月には32年ぶりに1ドル150円台を突破した。円安は海外進出企業や輸出企業に有利とされるが、一方で原材料、ユーティリティコストの上昇要因となる。足元では130円台後半と乱高下している。目の離せない状況は当面続きそうだ。

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