住友理工では今年3月に松阪事業所(三重県松阪市)において新事務棟を竣工し、5月から稼働を開始した。新事務棟の建設は経営ビジョン「2029年住友理工グループVision」で掲げる人的資本経営の一環として、「エンゲージメント」や「多様性」をコンセプトに、従業員が一層働きやすく、働きがいを感じる職場環境の整備を目的としたもの。7月29日にメディア見学会を実施し、こうしたコンセプトを織り込んだワークスペースや食堂、リチャージ(休憩)エリアなどを披露した。

松坂事業所新事務棟
エントランス

多様な働き方を実現するオフィス、自然にコミュニケーション生む空間など訴求

 住友理工の松阪事業所は1943年に松阪工場として操業をスタート。現在は主にゴム系の自動車用ホースを製造しており、小牧製作所(愛知県小牧市)、埼玉事業所(埼玉県上尾市)とともに国内生産拠点の中核を担う。これまで事業の進化に合わせ事業所内の設備を最適化し、高品質な製品を提供できるよう機能してきたが、コロナ禍を経て、テレワークやWeb会議が浸透し、より円滑なコミュニケーションや生産性向上が実現できる環境が求められていた。

 新事務棟の建設は、こうした働き方の変化や人材を取り巻く環境の変化を受けて、職場環境の改善と新たな人材確保に繋がる拠点づくりを目指したもの。前事務棟の建設以来43年ぶりとなる。

 新事務棟は3階建で、松阪事業所の総面積約7万5,000㎡のうち、新事務棟の建築面積は約931㎡、延床面積は約2,341㎡を占める。約10億円を投じ建設され、約650人が働いている。

 新事務棟の特徴は3つ。ひとつは「多様な働き方に対応したオフィス」で、Webブース席や半個室席、昇降可能な机を備えた集中席を設置。目的に応じた最適な働き方を可能とし、従業員がより集中できる職場環境を提供することで、生産性と創造性の向上を目指した。

 2つ目は「コミュニケーションが自然に生まれる空間づくり」で、部署を越えた交流を促す。コワーキングエリアを設け、食堂も業務利用を想定した環境整備を行い、相談・共創に繋がる導線を構築した。

 3つ目は「環境負荷低減に配慮した建物・設備の実現」で、建物の高断熱化、高効率空調やLow-E複層ガラスなどの導入により省エネ化に取り組み、基準一次エネルギー消費量から50%以上削減に適合するZEB Ready認証を取得している。

 見学は3階から1階の順に行った。3階は会議室、コワーキングエリア、リチャージ(休憩)エリアで構成される。会議室は、「以前の事務所では会議室の数が不足しており、予約しても空いていないとの声が多かった」(自動車用ホース松阪事業所総務勤労課山本千晶さん)ことを受けて、小会議室(6人用)を6部屋、中会議室(10人用)を3部屋用意。従来の小会議室3部屋、応接室、大会議室各1部屋から増やした。

 各小会議室ではWeb会議のためのモニターを備え、特にそのうちの1部屋はモニターを半円状に囲む形のデスク席とすることで、「発言がしやすく会議が進みやすい」と好評。中会議室の間仕切りはスライディングウォールを採用し、必要に応じて3部屋をひとつに繋げ、約50人用の大会議室として使用することも可能で「大勢のお客様や社内研修にも対応することができるだけでなく、利用頻度の低かった大会議室のスペースを有効活用できるようになった」(同)。

 会議室の隣にはコワーキングエリアが広がる。複数の可動式テーブルやモニター、ホワイトボードが設置され、可動式テーブルを自由に繋げ、形を変えることで人数に応じた打ち合わせにも柔軟に対応できる。また、半個室やリモート用ブースも備え、Web会議や自席以外での業務スペースとして活用することも可能だ。

 同スペースにはリチャージエリアも接しており、食事や気分転換の場としても利用できる。一部でハイチェアを採用し、通りかかった人との目線の高さが同じになるよう配慮され、コミュニケーションの促進や部署を越えた交流の場として機能している。ポータブルバッテリーを備えていることも好評だ。

 また、同階には外に出られるテラスもあり、「特に春や秋など気候の良い時期にはリフレッシュできる開放的な場となっている」(同)。

 2階の執務エリアでは、全フロアに採用されている遮熱効果を備えたブラインドにより、閉じた状態でも日射を防ぎながら自然光を取り込んでいることに加え、植栽の配置により明るく快適な空間を実現している。エリア全体に空調音のような背景音を流すことで周囲の音を聞き取りにくくするサウンドマスキングを採用することで集中力を維持しやすい。グループアドレス制により、グループごとの席移動が可能。窓際には共有エリアが隣接し、業務内容に応じて働く場所を自由に選択できる。打ち合わせエリアのほか半個室ブース、立った状態で業務を行える昇降式デスクも備え、ゾーニングされた集中エリアなども用意されている。

 1階はエントランスと食堂で構成される。エントランスは、正面に企業ロゴを配置し、モニターからは会社紹介の動画が流れる。壁面には自動車をモチーフとしたグラフィックを採用。上半分が電気自動車、下半分がガソリン車を表現しており、同事業所で製造する一部製品も展示している。「これまで培ってきた技術を大切にしながらも、将来のモビリティの変化にも柔軟に対応していくという思いを込めている」(同)という。

 エントランスの先にある食堂は木目調のデザインで、シンボルツリーを中心にナチュラルでくつろげる空間をイメージした。座席数は約200席で、一人席やソファー席など利用人数や気分に応じて選べる多様な席を用意している。「従来の食堂の座席数はコロナ禍以降160席ほどで、長テーブルが整然と並ぶ効率を重視したものだった。そのため、食事を終えるとすぐに現場に戻る人が多かったが、新しい食堂では食後もゆっくりと歓談する人も増え、社員同士のコミュニケーションの場としても活用されている」(同)という。

 全フロアを通して、社員が快適に気持ち良く働けるよう配慮されているだけでなく、部署を越えた人材交流を活発化させる工夫が見られた。例えば、毎週金・土曜日の時間限定で2人の社員証をかざすと飲み物が1本ずつ無料になる自動販売機の設置もそうした工夫の表れ。コミュニケーションのきっかけをつくることで、仕事におけるさらなるシナジーを期待していることがわかる。

 新事務棟の社員からの評判は上々だ。「職場がきれいで毎日会社に来るのが楽しい」「Web会議に集中しやすくなった」との声が届いているという。同社では今後もアンケート調査等で社員の感想を確認し、さらなる職場環境の充実を進めていく考えだ。