
#1
新スタッドレスタイヤ
「BLIZZAK WZ-1」に見る
“現物現場”の開発力
止まる、曲がる――その先の安心は、“現物現場”で磨かれる。
ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ「BLIZZAK WZ-1(ブリザック ダブルゼットワン)」は
商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」の採用で、氷雪上やドライ性能を高い次元で両立。
雪国のドライバーが危険と感じるスポットへ足を運び、
スケートリンクで一日に何十回もABS制動を重ねた開発のリアルと、
“長く使える”性能を達成できた理由を開発者たちに聞いた。
ENLITEN製品企画部門
PSタイヤ製品企画第2部
佐々木 達彦さん
消費財商品企画部
山下 諒さん
※肩書は取材当時(2025年9月)のもの
まずは2025年9月から発売した、乗用車用プレミアムスタッドレスタイヤ「BLIZZAK WZ-1」に、お二人がどのように関わっているのかを伺いたいと思います。
私は消費材商品企画部で、商品の企画を担当しています。
まずは「どういう商品にしていくか」というコンセプト立案から始め、佐々木さんをはじめ開発陣とやり取りしながら商品を形にしていきます。
もう1つは、PR活動を担当しています。カタログやPOPなどの販促ツールの制作、2025年7月15日に行ったような製品発表会の企画運営などを通して、「どう価値を伝えるか」を設計しています。
私は乗用車向けの製品企画部に所属しています。
消費財商品企画部が提案したコンセプト・企画・要求性能を技術で実現する“技術側の窓口”を担っています。
開発部署と連携し、どの技術を採用すれば狙いの性能に到達できるかを詰めていきます。逆に、「こういう技術があるから商品化できないか」と提案することもありますね。
密にコミュニケーションを取っている部署同士です。
ブリヂストンでは現在、商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を活用しています。WZ-1では、乗用車向けスタッドレスタイヤとして初めてこの基盤技術を搭載していますね。
ENLITENを搭載するのは、開発の大前提でした。
ENLITENは、接地を極める・ゴムを極める・ものづくりを極める・サステナブル性能を追求――という4本柱からなるタイヤの商品設計基盤です。
各要素を最大化した上で、狙いのコンセプトに最短距離で近づくためにどこをどう極めるかを設計思想として組み込み、ENLITEN搭載商品として世に出していきます。
“ENLITENを搭載する”ということは、タイヤの基礎技術を全方位で最大化し、用途に合わせて一部の機能にエッジを立てて(特化させて)各商品の特徴を出し、“カスタマイズ”するイメージでしょうか。
そのとおりです。今回のWZ-1のようなスタッドレスタイヤでは、やはり氷雪上機能が最も求められるので、そこを一番特化させています。
ブリヂストン提供資料
先ほど、コンセプト立案から携わっているというお話がありました。WZ-1のコンセプトにおける出発点は?
2つあります。
1つは、氷上でしっかり安心して止まれること(氷雪上機能)。もう1つがサステナビリティです。
ブリヂストン提供資料
氷雪上機能について補足すると、氷には危険度があります。水を多く含む氷は滑りやすい一方、カチカチの氷は思ったほど滑らない。私たちは、前者の滑りやすい“危険な氷”で性能を上げることに注力しました。
どのように氷雪上性能を向上させたのでしょうか。
WZ-1では、新開発のWコンタクト発泡ゴムを採用しました。ブリヂストン独自の発泡ゴムをさらに進化させ、業界初の親水性向上ポリマーを配合しています。
水に触れると“覚醒”するゴムです。
トレッドパターンと発泡ゴムで、滑る要因である“水を減らす”。それでも残るわずかな分子レベルで残った水に“力を持たせる”のが親水性向上ポリマーです。接地面に残った水分子と反応してグリップ力に変換し、氷上での制動性能を高めています。
ブリヂストン提供資料
もう1つのコンセプトであるサステナビリティは、長寿命化がポイントですか。
表現が難しいのですが、スタッドレスタイヤは摩耗寿命だけでなく、経年によるゴムの硬化も課題です。まだ溝が残っていても、硬化で3〜4年で交換する人も多い。そこで、ゴムの柔らかさをどう維持するかが鍵となりました。
ゴムを柔らかくするためにオイルを配合しているのですが、その分子が小さいので、走行に関わらず時間とともに気化して、ゴムの隙間を抜けていきます。
そこで、オイルの“柔らかくする効果”を保ったまま分子を大きくしたロングステイブルポリマーを、前モデル「BLIZZAK VRX3」から採用しています。抜けにくく、硬化しにくい。つまり、性能が長持ちするということです。
WZ-1では、このロングステイブルポリマーの配合量を増やし、経年劣化をより抑制しました。
ブリヂストン提供資料
新品時の性能も底上げし、そこからの性能低下の傾きも緩やかに。前作より“冬タイヤとして使える期間”を長くできているはずです。
省資源の観点でもサステナビリティに貢献できると考えています。
プロレーシングドライバー・佐藤琢磨さんのWZ-1試乗動画を拝見しました。「サマータイヤみたい」とドライ性能を絶賛していましたね。
こちらが痒くなるくらい褒められました(笑)。
公式動画には収まっていませんが、佐藤さんには夏タイヤとも乗り比べていただいています。
最近はドライでの安心感を求める声も増えていて。前モデルVRX3も高評価でしたが、WZ-1でも高いレベルに仕上がったので、強いアピールポイントです。
ドライ性能向上には何が効いたのでしょうか。
ENLITENの“接地を極める”が効いています。
接地を極めることで、タイヤが路面からの力をクルマにうまく伝える――これは氷上だけでなく、雪上・ドライ・ウェット路面にも効きます。クルマの意図する動きにタイヤが素直に付いてくる、応答性も高めて仕上げています。
接地を極めた結果、自ずとドライ性能が上がったということですね。
「街乗りでも安定して静か」というコメントもありました。静粛面向上の要因は?
発泡ゴムです。これは水を吸い上げる非常に柔らかいゴムで、夏タイヤより柔らかい。柔らかいと路面凹凸からの入力や音を吸収します。
私は都内在住でもスタッドレスを履いていますが、ドライ路面で本当に静かですよ。VRX2からVRX3に履き替えた時は、妻にも「すごく静かになった」と言われました。WZ-1も自分のハンドルで体験していきたいと思っています。
タイヤ開発においては、路面調査も重要な位置づけかと思います。
この路面調査について教えてください。
スタッドレスタイヤの路面調査は基本的に年1回、冬期に行います。ヒアリング自体は夏に行うこともありますし、調査会社を通じてユーザーアンケートも行っています。
直近では北海道だけでなく、青森や新潟など、スタッドレス使用が多い“雪国”各地に赴いて調査しました。販売店から「お客さまがここで滑ると言っていた」「この場所で事故をよく見かける」「自分も滑ったことがある」など、具体的な話を多くいただきます。
ヒアリングをもとに目星を付け、現場へ足を運びます。時間は有限なので絞り込みが大事。
開発の方向性が間違っていないかの確認にもなりますね。ヒアリングを含む路面調査は、コンセプト立案にも評価設計にも活きます。
危険な場所の例は。
急カーブ、海沿いで風が強い、雪が深い――などさまざまです。
2024年は新潟の三国峠に行きました。ここはウィンターレジャーの動線でもあり、雪に慣れていない方も多く走ります。幹線道路で交通量が多く、トンネルを抜けて新潟側に下る標高の高い区間は気温が低く凍りやすい。雪がなくても氷が張りやすいところです。
路面調査をしていると、地域独自のニーズを感じます。新潟は雪が積もったあと、融雪剤や消雪パイプで路面がビチャビチャになり、「走りにくくて怖い」という声がある。北海道ではあまり聞かない話です。
夜に氷点下、日中はプラスの気温に変化することで、夕方以降に再凍結する時期が一番危険。この現象は“時期のズレ”はあっても、一年の内のどこかの時期に必ず起きます。暖冬でも冬の危険は減っていないと考えています。
この危険性は地域を問わず、どこでも共通して指摘されますね。現地で痛感します。
だからこそ、一日で変わる環境に対応できるタイヤが必要、と。
そのとおりです。
評価現場ではどのような試験を。
12〜2月以外は毎月スケートリンク評価、冬は北海道で実路試験をします。
スケートリンク評価では、毎月リンクを1カ所借り、2〜3日、何種ものタイヤでブレーキ・旋回評価を繰り返し、1つのタイヤで何十回とABS(※)制動を取り、平均値を出します。
※ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)=急ブレーキでもタイヤをロックさせない、回転を止めない装置。各車輪をセンサーで見張り、ロックしそうな車輪のブレーキ圧を自動で出し入れして操舵性と安定性を保つ。
気が遠くなる作業だと思います。ブレーキを何度も踏んでくれている開発ドライバーには、本当に頭が下がります。
日本で一番ABSを作動させているチームかもしれません(笑)。
試作は、当たり前ですが一発では決まりません。何本も試作と評価を繰り返しながら、市場で期待通りの性能を発揮できるよう、説得力のある評価設計を心掛けています。
調査の一環で、路面温度も測りますよね?
レーザー温度計で氷温を測って、「見た目がこうなら何度くらい」といった感覚を掴みますね。評価でも氷温を管理し、実路面に近い条件かを見ます。
北海道・士別のテストコースはとても寒く、屋外の氷は低温でカチカチ。同じ氷でも温度で条件が全く違う。市場に即した路面をどう再現するかは重要な課題です。
再現ができていないと結果がぶれてしまうので、細心の注意が必要になります。「思うような結果が出なかった、なぜ?」は日常茶飯事(笑)。
路面再現はノウハウですね。
リアルな試乗環境を再現して評価できるのは現場だけ。そこが苦労する点でもあります。
路面を知り、再現し、同条件でタイヤの機能を磨き上げる――そこが肝なんですね。
改めて、開発・訴求の苦労は?
VRX3が多くの方に好評をいただいた中で、それを超えるWZ-1の価値をどうお客さまに伝えるかに苦労しています。
路面調査で得た情報も活用し、「こういう場面で安心感を持って運転できる」など、体験が想像できるような伝え方を模索しています。今もブラッシュアップ中で、商品企画として最も重要な役割だと考えています。
技術側としても、特にWコンタクト発泡ゴムや親水性向上ポリマーのような新概念の説明が難しく、最初は相当議論しました。“覚醒”という表現に辿り着くまでは、時間を要しましたね。
初めて聞いた時は、正直私もちんぷんかんぷんでした。
今も議論し続けているくらいです(笑)。
最後に“現場”で感じたことを教えてください。
たとえば、私は北海道のテストコースへ向かう時にタクシー運転手とコミュニケーションを取ることがあります。そこで「新しいスタッドレスタイヤ交換後、○年目から氷雪上で曲がらなくなる」などといった声を聞くと、“長く持たせる”重要性を痛感します。そうした現地の声を大切にし、開発にフィードバックしています。
路面調査の苦労は、相手が“自然”であること。予定を立てて行っても、空振りすることもあります。以前青森に行った時、大寒波だったことがあります。走ること自体が危険な状態で、調査になりませんでしたね。逆に新潟に行ったとき、雪が全くない時もありました。
そんな時はアンケートやヒアリングのほうが実態に迫れることもあります。
ブリヂストンだからこそできる路面調査は、各店舗へのアンケートやヒアリングなど、販売店や現場の皆さまのご協力あって成り立っています。
現場に足を運び、“真実”を自らの目で確かめる、“現物現場”は当社の心構えの1つです。デジタルはもちろん活用しますが、同時にリアルも追求していきます。
その姿勢、心強いですね。ありがとうございました。
佐々木さん(左)と山下さん
長く使える性能を、実地検証で積み上げる。
“現物現場”の精神による人と技術の連携が、冬道の安心と資源の未来を同時に支えている。
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