連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(57)
合成ゴムはナフサがなくなると製造できないのか?
連載 New! 2026-05-12
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
現在、イラン戦争の影響により中東地域からの原油・ナフサの輸入が滞り、日本における合成ゴムの生産には一定の制約が生じています。では、合成ゴムの原料とナフサはどのように関係しているのでしょうか。
合成ゴムの価格決定には、いわゆるフォーミュラ方式が広く用いられています。日本では、SBR、BR、ブチルゴム、NBR、EPDM、IRといった主要な合成ゴムの多くが、ブタジエンやナフサの価格を基準として設定されています。国内流通量の9割以上が、これらをベースに価格決定されていると考えられます。一部のメーカーでは国産ナフサ価格のみを基準とする場合もありますが、スチレンモノマー、アクリロニトリル、ベンゼンなど、各ゴムの構成原料に応じて価格変動を反映させるケースも見られます。さらに、重合・分離・乾燥工程で使用されるスチームの生成に必要なLNG(液化天然ガス)や石炭の価格を考慮する場合もあります。なお、シリコーンゴムやフッ素ゴムはナフサと直接的な関係を持ちません。

石油化学工業協会のサイトより
原油は加熱蒸留により、石油ガス(LPガス)、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などに分離されます。このうちナフサをさらに分解することで、エチレン、プロピレン、ブタジエンを含むBB留分、さらに分解ガソリン(トルエン、キシレン、ベンゼンなど)が得られます。溶剤類はこれらを分留・合成して製造され、シンナーもこれらのトルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸ブチル、MEKその他各種有機溶剤を配合して作られます。石油化学工業協会のサイトhttps://www.jpca.or.jp/studies/junior/howto.htmlにこれらの説明があります。
合成ゴムの具体的な製造は、例えばSBRはブタジエンとスチレン、BRはブタジエン単独、NBRはブタジエンとアクリロニトリル、EPDMはエチレン・プロピレン・ENB、CRはブタジエンと塩素から合成されます。なお、一部企業ではナフサに依存しない製法も採用されており、例えばデンカでは石灰石とコークスからカルシウムカーバイドを経てアセチレンを製造し、これを原料としてクロロプレンゴムを生産しています。
このように、多くの合成ゴムはナフサを起点とし、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどを経由して製造されています。そのため、ナフサの供給が途絶すると原料確保が困難となり、結果として生産に大きな影響が及びます。
もっとも、中間原料であるブタジエンやエチレン、プロピレン、ベンゼンなどを確保できれば、ナフサがなくても理論上は製造可能です。しかし、これらの多くは常温常圧では気体であり、輸送には冷却・加圧が可能な専用のケミカルタンカー(LPG船)が必要となります。また、海外からの大型船は水深の制約を受けるため、受け入れ可能な港も限られます。このような事情から、ブタジエンなどの輸入は容易ではなく、実際の輸入量も限定的です。
以上より、ナフサの供給が滞ると合成ゴム原料の調達は著しく難しくなり、代替手段も簡単ではないことが分かります。
2026年5月現在、日本の合成ゴム産業は原料確保に努めながら操業を継続しており、一部では稼働率の低下は見られるものの、生産停止には至っていません。今後、中東以外の地域からのナフサ調達が進み、ブタジエン等の供給が回復することが強く期待されます。
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