白耳義通信 第105回
ベルギーにサハラが来た日
連載 2025-07-17
鍵盤楽器奏者 末次 克史
今年の7月、ベルギーは記録的な暑さに見舞われました。ブリュッセル南部の Uccle では34.7度を記録。7月1日としては観測史上もっとも高い気温だったそうです。「夏でもクーラーはいらない」と言われてきたベルギーにとっては、まさに“サハラ砂漠が来た日”でした。
この暑さの原因は、「ヒートドーム」という現象。上空の高気圧がフタのように熱を閉じ込めて、気温がどんどん上がっていきます。さらに、ふだんは空気を動かしてくれるはずの偏西風が弱まっていたため、熱い空気がそのまま何日もベルギーの上空にとどまってしまいました。
日本とのちがいは湿度。東京では7月の湿度が75%を超えるのに対して、ブリュッセルは60〜65%くらい。だから「蒸し暑さ」は少ないものの、かわりに日差しが強くて、肌がじりじり焼けるような感覚があります。体感的にはわりと“ラク”に感じるけれど、実はかなり体力を奪われているという落とし穴も。
もともとヨーロッパの家は“寒さに強く、暑さに弱い”つくり。しっかり断熱されているぶん、夏になると部屋の中がむしろ外よりも暑くなることさえあります。しかもエアコンのない家が多いため、扇風機や冷房を求めて家電店に人が殺到。その室外機が放出する熱で、外の気温がさらに上がるという“負のループ”も起きています。
そんな中、「氷が手に入らない!」という声も。日本ならコンビニに駆け込めば何とかなりますが、ベルギーにはコンビニがありません。ちょっとした飲み物や冷却グッズをすぐに買える場所がないため、対応が遅れてしまう家庭も多くありました。
観光名所 Atomium アトミウムが一時閉館になったり、電車のダイヤが乱れたりと、暑さの影響は生活のあちこちに広がりました。SNSでは「ベルギーにも“暑さ休校”が来るのか?」と話題に。実際、お隣のフランスでは猛暑のために学校が休校になった地域もありました。「暑すぎて勉強どころじゃない」「先生たちも体力的に限界」といった声も多く、暑さへの備えの差がはっきり見えてきています。
さらに深刻なのが火災です。フランスやスペイン、ドイツ南部では山火事が多発。その原因の多くがタバコの投げ捨てや、草むらにすてられたビンに太陽光が集まって起きた自然発火だと言われています。ベルギーでも、森林公園での喫煙が禁止されるなど、火災を防ぐ対策が急ピッチで進められています。
国連の気象機関(WMO)は、「このような熱波は今後、“異常”ではなく“当たり前”になるかもしれない」と警告しています。冷房を使うことが珍しかった国が、今では涼を求めて右往左往する時代。もはや「昔はこうだった」という話では通用しなくなってきているのかもしれません。
これからの夏、私たちはどう生きていくのか。今回の熱波は、そんな未来のことを、そっと教えてくれている気がします。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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