【特集】開発現場のDX
Polymerize(ポリマライズ)、高分子特化のデータ管理&AIプラットフォームがもたらすゴム業界の研究開発DX
ラバーインダストリー 2026-04-15
サステナビリティへの対応や新興国メーカーの台頭など、ゴム・エラストマー業界を取り巻く環境は激変している。さらなる開発スピードの向上が求められる中、高分子材料に特化したMIプラットフォームで注目を集めているのが、シンガポール発のスタートアップ「Polymerize(ポリマライズ)」だ。職人の「暗黙知」を「形式知」に変え、データ・AI駆動型開発を「当たり前の日常」にしていくアプローチや、既存の配合の限界を打ち破る新たな受託開発サービスについて、同社日本法人代表の山田氏に話を聞いた。

Polymerize 日本法人代表
カントリーマネージャー 山田 知哉 氏
現場での原体験と「タイムラグ」 へのもどかしさ
ーPolymerizeの成り立ちと、日本市場への展開について教えてください
2020年にシンガポールで創業し、現在は日本や欧米など世界8カ国に展開、国内外で100社以上のお客様に導入いただいています。共同創業者で、CTOのDr. Abhijit Salvekar(アビヒジット・サルベカル)、は日本の大手化学メーカーで高分子材料の研究開発に従事した経験があります。彼の、「データを適切に管理・活用できれば、材料開発はもっと加速できる」という現場での強い課題感が創業の原点となっています。
ー山田様ご自身も、ゴム・タイヤ業界の現場をよくご存知だと伺いました
はい。新卒でタイヤ向け部材などを製造するメーカーに入社し、製造現場のベテランの方々に教えを受けながら育ちました。その後、外資系の化学メーカーで半導体向け材料などのビジネスに携わりました。私が当社に参画した理由は、自分自身の「原体験」にあります。素材業界ではお客様から「新しい材料が1年以内に欲しい」と要望されても、ゼロから開発すると倍以上の年月がかかるのが当たり前です。このタイムラグがイノベーションのボトルネックになっていると痛感しており、データやAIを活用することでお客様の開発期間を劇的に短縮できる当社のソリューションに、大きな可能性を感じたのです。
「MIベンダー」とは名乗らない。データ整備からの伴走
―MIツールを提供する企業が増える中、御社の特徴はどこにあるのでしょうか?
当社は自分たちのことを「MIベンダー」とは表現していません。MIというと「AIモデルを作って予測させる」部分だけが注目されがちですが、我々はその前段階である「データの整備と一元管理」を非常に重視しているからです。AIで使える状態のデータを用意するのは大変な労力がかかります。そのため、当社はお客様の状況に合わせて、紙や個人のExcelでバラバラになっているデータを整備するところから一緒に伴走します。また、セキュリティ面でも国際認証を取得し、全データは暗号化して国内サーバーで管理するなど、安心してご利用いただけるよう努めています。
ーゴムの開発現場では、まさに職人の「暗黙知」が大きなウェイトを占めていますね
おっしゃる通りです。ベテラン技術者の方々が長年の経験と勘で最適な解を導き出す「職人の世界」ですが、退職などで大切なノウハウが失われてしまうのはもったいないことです。 当社のプラットフォーム「Polymerize Labs(ポリマライズラボズ)」に過去の実験データを蓄積していただくことで、「原料Xを増やすとどの特性にどのような変化が生まれるか」といった暗黙知が、組織の「形式知」へと変わっていきます。これにより、大切な情報資産の次世代への継承をお手伝いできると考えています。

Polymerize One:配合の「限界」を突破する新規材料開発
ー「Polymerize One」という受託開発サービスもあるそうですね
はい。「Polymerize Labs」のツール提供だけでなく、特定のテーマについて私たちが材料コンサルティングから試作・試験までを一気通貫で受託するサービスです。メーカー様とお話しすると、「サプライヤーから既存のポリマーを買ってきて配合を工夫してきたが、もう組み合わせのパターンが出尽くし、性能向上が頭打ちになっている」というお悩みをよく耳にします。
ー配合の工夫だけでは限界が来ている、と
はい。画期的な製品を作るためには、「自分たちの製品に最適な新規ポリマーそのものから開発したい」というニーズが生まれます。しかし、最終製品のメーカー様にはポリマーを合成する設備がないことも多いです。例えるなら、「最高のプリンを作りたいが、自分たちには『最高の卵』を作るための鶏の品種改良設備がない」状態です。
そこで私たちが、「最高の卵」の段階から一緒に開発します。当社のグローバルな提携先を活用し、試作や試験までをお任せいただくことで、自社に設備がない企業様であっても、 川上から川下まで垂直統合型の開発支援が可能となります。配合の限界を突破する選択肢としてお役に立てると考えています。

PIXAがもたらす「データ・AI駆動型開発を当たり前の日常に」
ーデータ活用を進める上で、「属人化」の課題もよく耳にします。
日本の市場でも、「MI(マテリアルズ・イン フォマティクス)を使える人はどんどん使うが、そうでない人は置き去りになり、MI自体が一部の担当者に属人化してしまう」というお悩みを抱える企業様は少なくありません。そこで私たちが大切にしているのが、「データ・AI駆動型開発を当たり前の日常に」していくことです。プログラミングやデータサイエンスの知識がなくても全社でAIを使用できるよう、プラットフォーム内に「PIXA(ピクサ)」という材料開発に特化した生成AIエージェントを実装しました。
ーPIXAはどのように機能するのでしょうか?
チャット形式で自然言語で対話ができ、「作ったAIモデルの精度が良くないが、次の一手はどうすればいいか?」と質問すると、次の打ち手を教えてくれます。データサイエンスの「先生」として機能するため、若手研究者の方でも自力で問題を解決でき、キャッチアップの期間が短縮されます。一人ひとりが自立してAIを活用できるようにすることで、データ・AI駆動型の開発を「当たり前の日常」にし、研究者の方々が本来のアイデア創出に集中できる環境づくりに貢献します。
魔法ではない。スモールスタートで共に未来を創る
ー最後に、データ・AI駆動型のMI導入を検討されている方々へメッセージをお願いします
まず最初にお伝えしたいのは、「AIは魔法ではない」ということ。最初から全社のデータを100%完璧に整備しようとすると、途方もない労力がかかり、負担が大きくなります。そこで当社がおすすめしているのは、まずは「AIにフィットし、成果が出そうなテーマ」を慎重に選定し、そこからスモールスタートすること。準備や助走に1年程度かかる腰を据えた取り組みにはなりますが、今日からデータの蓄積を始めれば、数年後には圧倒的な競争力を持つ情報資産になると信じています。
私たちのミッションは、「材料開発に新しい風を」もたらすことです。AIは人間の仕事を奪うものではなく、研究者の皆様の情熱と努力にそっと寄り添い、後押しをする“追い風”のような存在でありたいと考えています。皆様にとってデータ・AI駆動型開発が「当たり前の選択肢」となるよう、良きパートナーとしてご支援します。
【月刊ラバーインダストリー2026年3月号掲載】








