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ラバーインダストリー700号突破記念特集

〈特別取材〉 Nano Terasu(ナノテラス)

会員限定 ラバーインダストリー 2024-06-19

 4月1日から稼働開始したNano Terasu(ナノテラス)は、SPring-8に続く日本発世界トップレベルの放射光施設。現在ゴム業界では、ブリヂストンや住友ゴム工業をはじめとしたタイヤメーカーが同施設の利用を発表している。日本が誇る研究インフラとして走り出した同施設について、運用を担当する主体の1つである光科学イノベーションセンター(PhoSIC)高田昌樹理事長は「ゴムにとって非常に強力なツールとなり得る」と話す。

Nano Terasu(ナノテラス)とは

 東北大学青葉山新キャンパス内にプロ野球も開催できる野球場ほどの大きさで建設された“巨大な顕微鏡”、「Nano Terasu(ナノテラス)」。物質の電子状態やその変化をナノ(10億分の1)レベルで可視化できる世界最高レベルの高輝度放射光施設だ。放射光は輝度が高い(光が明るい)ほどより微小な領域を、より詳細に観察することができるとされている。ナノテラスでは、光源となる電子ビームが細く小さいため、輝度と指向性の高い放射光が得られる。一部の波長帯では、SPring-8をはじめとした国内の既存放射光施設約100倍以上の輝度となる。

軟X線と硬X線

 X線には硬X線と軟X線が存在し、それぞれ得意とする研究領域がある。硬X線は物質の構造解析を、軟X線は電子の機能解析をそれぞれ得意としている。ナノテラスが軟X線領域に挑戦するのは、必要とされる研究領域の広がりが背景にある。これまでの研究では、SPring-8などで使用される硬X線が得意とする物質の“構造解析”の利用が多かった。近年はこれに加え、物質の“機能や化学反応の過程の理解”のニーズが高まっている。これらの理解のためには、軟X線が得意とする電子状態の解析を綿密に行う必要があった。

 日本はこれまで、放射光やX線レーザー技術で世界をけん引してきた一方、その中でも“軟X線”領域の光については国際競争力の向上が必要とされていた。こうした背景から、世界トップクラスの研究インフラとして建設されたのがナノテラスだ。

 「ゴムにおいては、SPring-8で放射光の有用性が証明された。しかし、ゴムというのはカーボンブラックや可塑剤、加硫反応を見ていかなければならない。そこを見ていくために軟X線が必要だった」(高田昌樹光科学イノベーションセンター(PhoSIC)理事長)

SPring-8とナノテラス

各施設の放射光の違い


 これまでに国内で設立された有名な放射光施設の1つに、1997年に供用を開始した「SPring-8」(兵庫県佐用町)がある。ナノテラスとの主な違いは、使用する放射光の種類。ナノテラスでは主に軟X線を、SPring-8では硬X線を使用する。SPring-8で使用する硬X線も輝度が高く、ミクロ(100万分の1)レベルより小さな領域をより明るく照らすことが出来るが、ナノテラスではナノ(10億分の1)レベルを可視化していく。
「東と西に1つずつ放射光施設を作ったというわけではなく、ナノテラスとSPring-8では“見える領域”が違う。利用特性で相互に補完し合う2つの放射光施設と捉えてほしい」(同)

企業の研究開発段階のDX化

 ナノテラスを活用することは、企業の研究・開発段階におけるDX化を推進することに繋がる。これまでの放射光を使用した研究では、

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