「埋もれた界面」を観測する新技術で、複合材料の高機能化に貢献
シリカがタイヤを高性能化する仕組みを中性子と水素のスピンで解明
原材料 2024-05-23
日本原子力研究開発機構、総合科学研究機構、J-PARCセンター、山形大学、三重大学、京都大学、横浜ゴムは、中性子と水素のスピンを利用した「スピンコントラスト変調中性子反射率法」により、ゴムとシリカの分子レベルの結合状態を解明した。

複合材料では、異種材料間でのナノレベルの結合が重要となり、例えば自動車用のタイヤでは、ゴム材料の性能を高めるためにシリカナノ粒子を添加している。その際、ゴム材料とシリカナノ粒子の結合を強くするためにカップリング剤も添加するが、カップリング剤がゴム材料とシリカナノ粒子の異種材料間でどのように機能しているかを知るためには、異種材料の界面を観測する必要がある。
しかし、電子顕微鏡やX線、中性子線を使用した従来の手法では、ゴムとシリカの界面でカップリング剤がどのように機能しているかを調べることができなかった。そこで今回、開発したばかりの「スピンコントラスト変調中性子反射率法」を用いた。
同手法により、ゴム材料とシリカナノ粒子の界面にカップリング剤が単分子層を形成していることを観測。また、カップリング剤層の構造や組成から、カップリング剤とゴム材料との相互浸透がゴムとシリカの結合の要となることを明らかにした。
中性子反射率法は、中性子の薄膜試料に対する反射強度の入射角および波長に対する変化を測定することにより、その表面や界面の構造を決定するもの。特に、中性子ビームの高い物質透過能により多層膜試料の内部に埋もれた界面の観測を得意としている。
しかし、従来の中性子反射率法では界面に集積したシランカップリング剤が作る層の構造や組成にまで言及することはできず、従来法では全ての反射中性子を一つの検出器で検出するため、検出された中性子が多層膜試料のどの面で反射されたものかが分からない。特に数ナノメートルの厚さしかないシランカップリング剤の層では困難を極める。
今回用いたスピンコントラスト変調中性子反射率法は、『中性子の水素原子核に対する散乱能は互いのスピンの向きに強く依存する』という性質を利用した多層膜試料の構造解析法。水素核スピンの方向を揃えた薄膜試料に対して、スピンが平行もしくは反平行に揃えられた中性子を入射すると、各反射面における反射振幅は独立に変化する。複数のスピン状態における反射率データからそれぞれの反射面の反射振幅を決定し、その面の構造や各層の構造および組成を決定することができる。
スピンコントラスト変調中性子反射率法を用いることにより、シランカップリング剤層の構造、組成、ポリブタジエン鎖との相互浸透までを決定し、そこから剥離のしやすさまで言及できたことが新しい発見と言える。また、研究成果によって、ゴム、シリカ、シランカップリング剤の反応形成プロセスがゴムとシリカナノ粒子の剥離力に大きな影響を与え得ることが明らかになった。
ゴムとシリカナノ粒子との剥離力は、タイヤの耐摩耗性に大きな影響を与える。今後、今回の研究結果を反映したタイヤ用ゴム材料の製造プロセスの改善や新しいシランカップリング剤を用いることによって、耐摩耗性が大幅に改良されたタイヤの開発が期待できる。また、ゴム材料だけでなく、さまざまな複合材料の界面状態の研究に貢献することが期待される。
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