とある市場の天然ゴム先物 29
【2021年振り返り②】天然ゴム先物・市場動向編
連載 2021-12-21
②天然ゴム先物市場はどれだけ盛り上がったか
それでは次に、市場の盛り上がりを表す指標である取引高や取組高(建玉残高)を見てみましょう。
RSS3先物 一日平均取引高推移
注:2021年の平均取引高は2021年12月17日までのデータを使用
出所:JPXより筆者作成
市場の盛り上がりという点で、2021年の特徴の一つ目は取引高が大きく低下したことです。
2021年の一日平均取引高(ADV、2021年12月17日までのデータ)は3,044枚であり、前年の4,464枚から大きく減少しています。5年前には約10,000枚であったことを考えると、市場縮小が顕著となってしまっています。
この構造的な背景としては、①天然ゴム需要のRSSからTSRへの長期的なシフトが起こっており、②それに伴いRSS3先物を取り扱っていた業者やディーラーの撤退や縮小が続いており、かつ③中国市場、特に海外投資家にオープンな上海エネルギー取引所(INE)のTSR20先物に投資家が流れている、ことなどが挙げられるでしょう。
また短期的要因としては、2021年は特に4月以降、市場の値動きが小さく相場の方向性が見えにくかったことや、日本の天然ゴム先物市場のパフォーマンスが他市場と比較して悪かったことも挙げられるでしょう。
一日平均取引高 他市場との比較
注:INEのTSR20先物は2019年8月より取引開始。2021年は12月17日までのデータを使用
出所:JPXより筆者作成
シンガポール(SGX)や中国(SHFE、INE)市場と比較してみますと、中国市場のボリューム拡大が続いており、2021年は日本、シンガポールともに一日平均取引高が減少しています。
ただしシンガポールのTSR20先物は前年比-7%に留まっているのに対し、日本のRSS3先物は前年比-32%と影響が大きくなっています。市場縮小を止めるためにも、何らかの早急なテコ入れが必要との認識を持っています。
では誰が取引を減らしているかという点ですが、ここで投資家の主体別の取引高を集計した統計である「投資部門別取引状況」を見てみましょう。
RSS3先物 投資部門別取引状況(月次、売買合計)
出所:JPXより筆者作成
こちらで気になる点は、2021年2月以降に個人投資家のシェアが下落しており、結果として海外投資家のシェアが増加していることです。
年末の取引高が年始よりも減少していますので、以前より取引シェアの60%超を占めている海外投資家の取引高も歩調を合わせて減っているのですが(1月95,955枚→11月69,282枚、取引高は売買合計)、それ以上のペースで個人投資家が売買を手控えたことが分かります。
特に2021年7月以降で顕著になっており、これが相場要因なのか、もしくは市場流動性の減少により市場から退出し始めているのか、今後しっかりとウォッチしていきながら対応を検討する必要があると考えています。
それでは次の指標に参りましょう。市場の盛り上がりという点において、2021年の特徴の二つ目は取組高(建玉残高)が特に大きく減少したことです。
RSS3先物 取組高推移(2021年)
出所:JPXより筆者作成
第8回でもご紹介しましたが、取組高は投資家が新しく積み上げたポジションの総和であり、いわば市場のマグマのエネルギーを表していると言えます。この取組高が減少しているということは、市場全体の規模が縮小しているということに他なりません。
2021年に入り取組高の水準はじりじりと減少しており、7月に一度切り返したものの、10月以降に急減少して10,000枚を割り込み、2021年12月17日時点でも以前の水準に回復していません。
月末時点で取組高が10,000枚を割り込んだのは1971年11月以来であり、実に40年振りの低水準となってしまっています。もしこのまま年末まで回復しなければ、年次ベースで10,000枚を割り込むのは1968年以来となります。
取組高 他市場との比較
注:INEのTSR20先物は2019年8月より取引開始。2021年は12月17日時点
出所:JPXより筆者作成
他市場と比べてみますと、取引高と同様、中国市場(SHFE、INE)はともに取組高を伸ばしています。またシンガポール市場(SGX)は5月から取組高を大きく減らし、7月には一時34,000枚を割り込みましたが、10月以降、取引高を伴って年初に近い水準まで回復しています。
では誰が取引を減らしているかという点ですが、ここで投資家の主体別の取組高を集計した統計である「投資部門別建玉内容集計表」を見てみましょう。
RSS3先物 投資部門別建玉状況(月末時点、売買合計)
注:2021年12月は12月17日時点
出所:JPXより筆者作成
取引高と同様、建玉(ポジション)の60%近くは海外投資家が保有しています。取組高が減少した10月以降を見てみますと、各主体のシェアはほとんど変わっていないことが分かります。
これはどこか特定の投資家層がポジションを大きく落としたというよりも、投資家全体でポジションを減らしたということを意味していると考えられます。つまり一時的な特殊要因というよりは、むしろ市場構造全体の問題であるように見えますので、より根が深いものと思われます。
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