とある市場の天然ゴム先物 25
RSS3先物の対象となる天然ゴムの商品スペックを見てみる
連載 2021-10-26
シッパー及びパッキングハウスの登録制度
さて、少し脱線してしまいましたが、次にRSS3先物の受渡供用品の要件になっている、「シッパー及びパッキングハウスの登録制度」を見てみましょう。
まずここで「シッパー」は原産地国における輸出業者のことを言い、農家が生産した天然ゴム原料をディーラーから購入し、その処理施設(スモークハウス)で燻煙し、RSS として選別、格付けしたうえ、パッキングしたのちに輸出します。
この過程のなかで、コーティングやマーキングなどを含めたパッキング業を行う場所がパッキングハウスであり、その業務を行う業者のことを「パッカー(プロセッサー)」と言いますが、通常はシッパーがパッカーも兼ねるケースが一般的です。
タイにおける天然ゴムの流通経路
出所:TOCOM「ゴム取引の基礎知識」
さて、シッパー及びパッキングハウスの登録制度ですが、1979年から80年にかけ、タイの特定のパッカーからの荷口について、燻煙・乾燥不足や金属片等の異物混入などが相次いで発生したことから、1981年より当時の日本ゴム輸入協会(現・日本ゴムトレーディング協会)が導入したという経緯があります。
現在登録されているシッパー、パッカーですが、制度導入の経緯から全てがタイの業者となっており、リストに掲載されているシッパーは23社、パッキングハウスは43ヶ所となっています(2021年10月現在)。
また登録の運用について、日本ゴムトレーディング協会の申請登録要綱によると、①原則当会会員経由であること、②シッパーとして取引の信頼性、製品の品質を評価できる実績を有すること、③日本国内での実績を有すること、④申請は、当会の所定の申請様式を使って当会会長あてに申請をすること、とあります。
シッパー及びパッキングハウスの登録リスト
出所:日本ゴムトレーディング協会より日本取引所グループ作成
リストに掲載されているシッパーの特徴として、ほとんどがタイゴム協会(The Thai Rubber Association, TRA)の会員であり、また地理的には、下図の青色で示されているようにタイ南部にパッキングハウス所在地が集中しており、特に濃い青色のソンクラー県やナコーンシータンマラート県(共に南部)、ラヨーン県(中部)が特に多くなっています。
登録パッキングハウスの所在地(タイ)
出所:日本ゴムトレーディング協会より筆者作成
このように登録されているパッキングハウスがタイ南部に集中しているのは、歴史的にタイ南部が天然ゴム生産の中心であったことが挙げられます。実際、タイゴム協会に登録されている46社のうち、本社が最も多いのは首都バンコクと同率で南部のソンクラー県であり、続いて南部のナコーンシータンマラート県や中部のラヨーン県となっています。
TSR20先物の承認工場の追加の際にもありましたが、最近ではタイ北部での天然ゴムの生産も伸びていますので、今後RSS3先物の対象となるパッキングハウスを拡大して欲しいという話が出てくるかもしれません。
さらに、現在の登録制度はタイの業者が前提になっていますが、ベトナムといった他の国の天然ゴムを受渡供用品として欲しいといったニーズも出てくるかもしれません。実際、中国やシンガポールの先物市場では複数国産の天然ゴムが受渡供用品として認められています。こうした他国産のゴムを受渡供用品として追加するためには、こちらも規則上の手当てなどが新たに必要になると思われます。
何れにせよ、天然ゴム先物の受渡供用品となるには、何よりも実際にその天然ゴムを使用するユーザーがその品質を信頼することが第一です。したがって、今後シッパーやパッキングハウスの追加といった案件が出てくる際には、状況をしっかりと確認したうえで、業界全体で調整をしていくことが重要になるでしょう。
※次回の更新は2021年11月9日(火)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
International Standards of Quality and Packing for Natural Rubber Grades (The Green Book)
The Thai Rubber Association
TOCOM「ゴム取引の基礎知識」
日本取引所グループ「定款等諸規則/諸規則内規」
日本取引所グループ「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」
日本ゴム輸入協会「日本ゴム輸入協会記念誌 40年のあゆみ」「50年のあゆみ」
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