連載「つたえること・つたわるもの」(98)
空の<青>、山の<緑>。太陽から届く癒しのメッセージ。
連載 2020-09-23
かつて、医師の診察着は清潔感をあらわす白いユニフォームが主流だったが、近年、緑(青緑)色の手術着や診察着をまとった、親しみやすい雰囲気のドクターがふえている。
1920年代の米国、ニューヨークのある病院で、外科医が手術中に周囲の白いタイル張りの壁に青緑色の幻が見え、苦痛を訴えたという。これは色覚の残像現象によるもので、血液の色である赤の補色、つまり青緑色が外科医の視覚に残像としてあらわれたのだった。手術場の医師たちの苦痛の原因となった残像現象をやわらげるために、壁の白タイルは青緑色にとり替えられ、その後は、それまでは白で統一されていた病院の色彩環境が、カラー・セラピー(色彩の自己治癒力)の観点から見直されるようになった。
いまや手術着のブルーグリーン、女性看護師(看護婦)のピンクや清掃作業員のブルーのユニフォームは一般的になり、欧米では病気の種類、患者の年齢によって病室の色を塗り分ける試みもなされている。
生理学的な観点からも、700ナノメートルの赤い波長は脳の興奮を亢進させ、550ナノメートルの緑の波長は気分をやわらげる働きがあるといわれている。私たちは長い間、信号機の「ススメ」や非常口のマーク、グリーンベルト(緑の安全地帯)など、緑色を「安全と安心」の記号として用いてきた。緑色は七色の可視光線のちょうど中間に位置するニュートラルな色で、暖色系の黄緑から寒色系の青緑まで多くのバリエーションがあり、人間を自然と調和させ、身心を快適にするちからをもっている。