連載「つたえること・つたわるもの」(79)
伝える(書く/話す)・伝わる(読む/聴く)を養う国語教育。
連載 2019-12-10
今秋、文教大学の現役学生に文章作成法を学ばせる〈即戦力〉養成講座では、2つのポイントを挙げた。
① パラグラフライティング(欧米文章教育で用いられる方法)で、「段落=意味のひとまとまり(パラグラフ)」を、トピックセンテンス(中心文)+サポーティングマテリアル(支持文)に分けて考える。講座では『理科系の作文技術』(木下是雄著、中公新書、1981年)の例文を用いて説明した。
☆「パラグラフ」とは「意味のひとまとまり」である
パラグラフとは、内容的に関連した複数の文(センテンス)の集まりのことだが、パラグラフ全体として、ひとつのトピック(段落の話題)についてのメッセージ(結論・主張)と、その根拠(理由、例示)が書かれている。パラグラフの中でもっとも重要なトピック=何(話題、主題)について+メッセージ=何を言おう(主張、意見)とするのかを、要約的に述べたトピックセンテンス(中心文)が含まれている。
A君は根っからのスポーツマンだ。夏は水泳、冬はスキー、春と秋はテニスと、日焼けのさめる間がない。いちばん年季を入れたのはスキーだという。
この例文では、トピック(A君はスポーツマンだ=話題)+メッセージ(根っからのスポーツマンだ=意見)=トピックセンテンス、つまり第一文の「A君は根っからのスポーツマンだ」になる。また、パラグラフの「そのほかの文(サポーティングマテリアル)」には、次の2つの要素と役割が求められる。
(1) トピックセンテンスで要約して述べたことを、具体的にくわしく説明する文であること。これを支持文(サポーティングマテリアル)という。
(2) そのパラグラフとほかのパラグラフとのつながりを示すもの。次のパラグラフの最初に「つなぎ」の言葉が書いてなくても、冒頭のトピックセンテンスを読めば、「これから書かれること」と「これまで書いてあったこと」とのつながりが自然にわかる、つまり全体の流れを理解する手がかりとなる文であること。
② 達意の文章法といわれる「5W1H」神話や「起承転結」法則にとらわれ過ぎないこと。まず、自分が「いちばん伝えたいこと(中心文)」は何かを明確にしたうえで、次にその理由(なぜならば)や具体例(たとえば)などを補完する、いくつかの情報(支持文)を配置する。
☆「5W1H」の絵日記は、なぜつまらないのか
「正確に書く、簡潔に書く、明快に書く、ムダを省く」をモットーとする新聞記事には、読者に過不足のない情報を〈伝える〉ために、六つの要素(5W1H)が含まれている。いつ(WHEN)、どこで(WHERE)、だれが(WHO)、何を(WHAT)、なぜ(WHY)、どのように(HOW)というものだ。これは、新聞記事の組み立てに欠かせない情報だが、実際の新聞記事は、必ずしも5W1Hの順番で書くわけではない。取材メモの内容を5W1Hの順番で、論理的な文章にまとめることは、もちろん可能だ。たとえば……。
きょうは朝から、近くの林で、弟と、虫とりをしました。きのう買ってもらった虫かごに入れようと思って、大きなクワガタを虫とり網でつかまえました。
これは、小学生が夏休みの絵日記を5W1Hに沿って、時系列で書いた過不足のない文章である。
しかし、これでは「虫とり」の感動が〈伝わる〉文章にはならない。日本の子どもたちの多くが、出来事が起こった順番に「朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、朝ご飯を食べた」のような、面白くない文章を書くようになった原因は、小・中学校時代の国語教育で学んだ「起承転結」にあるのではないだろうか。
「起承転結」とは、起(ある話題を提供する)/承(その話題の内容を説明する)/転(話題の思わぬ展開を示す)/結(話題全体を関連づけて締めくくる)だが、もとは中国の漢詩(絶句)に用いられた排列(起句・承句・転句・結句)のこと。四コマ漫画のアイディア展開には向くかもしれないが、ふつうの文章を書くときには勧めたくない古典的な文章スタイルだ。面白さを重視するなら、「転・結・起・承」「起・承・結・転」、「起・承・転・転」がお勧めである。
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