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連載「つたえること・つたわるもの」(78)

大学入試。英語に4技能を求めるのに、日本語は2技能のみ。

連載 2019-11-26

 ところで、大学入試における国語(日本語)試験はどうなっているのだろう? 大学入試センターHPを閲覧すると、英語のような4技能試験ではなく、国語には読む(リーディング)・書く(ライティング)の2技能試験が課せられている。平成31年度の試験問題を見ても、長文の読解(これを読んで後の問いに答えよ)、漢字テスト(傍線部に相当する漢字を次の各群からそれぞれ一つずつ選べ)がほとんど。文科省、経営者団体は、今の高校生や大学生の日本語力のうち、「話す・聞く」力にはほとんど関心がないように見える。

 今秋、文教大学のオープンユニバーシティ(社会人講座)で、現役学生を対象に『書く・読む/話す・聴くちから「即戦力」養成講座』を開講した。4つの力の中で、〈書く・話す〉は自分から「伝える」力であり、〈読む・聴く〉は相手から「伝わる」力である。同じ「聞く・聴く」であっても、「話を聞く(ヒアリング:面接調査)」と「話を聴く(リスニング:傾聴)」では少しニュアンスが異なるが、その違いを実感してもらうために、①メモをとりながら〈聞く〉演習と、②メモをとらずに〈聴く〉演習を行った。

 最初に、私(原山)が書いた雑誌のコラムA(400字)を朗読するので、「筆者がいちばん伝えたいこと」は何かを答えよ、メモはとってよい。次に、コラムB(800字)を朗読するが、こんどはメモを禁止、目をつぶったまま聞いて、同じ問いに答えよ』、という指示を出した。

 全員の発表(コラムAとBのリスニング→「筆者がいちばん伝えたいこと」を40字に要約して発表)のあと、メモをとりながら聞いた場合と、メモをとらずに聴いた場合とでは、どちらが朗読のリスニングに集中できたか、その答えを深く考えることができたかを尋ねると、ほとんどの学生が「メモをとらずに聴く」方に手を挙げた。この演習の目的は、実は答えのクオリティ(発表の中身、レベルの高低)ではなく、リスニング(傾聴)の集中度、理解度の深さである。集団討論(グループディスカッション)の演習で、発言の少ない学生を観察すると、「メモをとる」作業に追われ、意見をまとめる余裕がなくなっていることが多い。

 もう一つのポイントは、「相手の話を要約して聴く」力の習得である。朗読される話(400字は1分間、800字は2分間)の中から「筆者がいちばん伝えたいこと」の40字情報をつかむ力、それが「相手の話を要約して聴く」力である。

 私たち日本人の多くは、「和語+漢語+外来語」で構成された日本語話者である。誕生から幼児期までは主たる保育者である母親と「話しことば」の「ひらがな(和語)」で会話し、幼稚園以降は外来語などの「カタカナ」や簡単な「漢字」を覚え、小中学校教育でむずかしい「漢字(漢語)」が混じった日本語文の「書きことば」を習った。つまり、まず「話しことば」があり、次に「書きことば」が生まれたのである。

 私たちが何かを「考える」ときには、頭の中で「話しことば」のフレーズがポンポンと浮かんでくる。さらに、その「考え」を文字で表現する「書きことば」の段階で、ロジカルチェック(文章のすじ道・論理的なつじつま=相手に伝わる文章であるか?)が行われる。一般的に、「書きことば」はおもに「意味」(ロジック)の伝達が優先されるが、「話しことば」は双方向(インタラクティブ)な「思い」(フィーリング)のキャッチボール(対話)に向いている。

 次回のコラムでは、『書く・読む/話す・聴くちから「即戦力」養成講座』の配布資料を引用しながら、自分の思いを〈書く・話す〉伝え方、相手の思いを〈読む・聴く〉伝わり方について考えてみたい。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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