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連載「つたえること・つたわるもの」(61)

3・11。原発供養、祈りのこころ。歌に詠む、物語に語り継ぐ。

連載 2019-03-12

 内田さんが「今日本人がまずなすべきなのは」に続く文脈で「すでに〝あのお方〟がなされているとは思うが」と書いたのは、平成最後の日(4月30日)に退位される、今上天皇、皇后両陛下のことである。

 宮内庁発表(2011年5月2日)によると、両陛下は震災直後の3月15日から4月30日まで、お住まいの皇居、御所で自主的に電気の使用を控えられる「自主停電」をただの一日も休まず実行されたという。

 天皇陛下の最も大切なお役目は、宮中祭祀である。それは「国家と国民の安寧と繁栄を祈る」ことであり、皇居宮中三殿での祭祀はもとより、被災地を訪問されることもまた広義の祭祀、つまり「被災地の復旧と復興」を祈るという重要なお役目なのである。それは、被災地の避難所で汚れた床に両膝をつき、一人ひとりと向き合ってお見舞の言葉をかけられる、天皇、皇后両陛下の無私の「祈り」に込められている。

 ところで、内田さんはやはり先のブログのなかで「原発工事のときも地鎮祭は行われたはずである。なぜ地鎮祭を行うのか。それは家を建てる工事でさえ〝恐るべきもの〟の不意の闖入についての警戒心がなければ、思いがけない事故が起こることを私たちが知っているからである。地鎮祭は地祇(※土地の神々)を鎮めるためのではなく、人間の側の緊張感を亢進させるための心的装置なのである」と説明し、「本来であれば〝原子力〟は天神地祇を祀る古代的な方法に従って呪鎮されるべきものであった」と指摘した上で、次のように日本的な祈りの方法を提案している。

 伝統的な日本的なソリューションは「塚」と「神社」である。

 「荒々しいもの」は塚に収め、その上に神社仏閣を建立して、これを鎮める。(中略)塚に草が茂り、あたりに桜の木が生え、ふもとに池ができ、まわりで鳥や虫が囀るようになれば、それは「生態系」に回収されたとみなされる。自然力に任せておけないときは、神社仏閣を建てて、積極的に呪鎮する。(中略)

 それでもダメなときは、「歌を詠む」「物語に語り継ぐ」という手立てを用いる。

 【『内田樹の研究室』「原発供養」/2011年4月8日】

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