PAGE TOP

連載「つたえること・つたわるもの」(55)

クオリティ・オブ・デス、リビング・ウイルを考える――その2

連載 2018-12-25

 さて、「リビング・ウイル(終末期医療における事前指示書)」には、どのような項目があり、どのような選択をすればよいのだろうか。(一財)日本尊厳死協会のHPから、その一部を紹介しよう。

 この指示書は、私の精神が健全な状態のある時に私自身の考えで書いたものであります。

 したがって、私の精神が健全な状態にある時に私自身が破棄するか、または撤回する旨の文書を作成しない限り有効であります。

□ 私の傷病が、現代の医学では不治の状態であり、すでに死が迫っていると診断された場合には、ただ単に死期を引き延ばすためだけの延命措置はお断りいたします。

□ ただしこの場合、私の苦痛を和らげるためには、麻薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行ってください。

□ 私が回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥った時は生命維持装置を取りやめてください。

 以上、私の希望を忠実に果たしてくださった方々に深く感謝申し上げるとともに、その方々が私の要望に従ってくださった行為一切の責任は私自身にあることを付記いたします。


 また、同協会の会員向けの「私の希望表明書」には、次の項目がある。

1.最期を過ごしたい場所(一つだけ印をつけてください)

2.私が大切にしたいこと(複数に印をつけてください)

3.自分で食べることができなくなり、医師より回復不能と判断された時の栄養手段で希望すること(複数に印をつけても迷うときはつけなくてもよいです)

4.医師が回復不能と判断した時、私がしてほしくないこと
※詳細な内容は、同協会のHP(http://www.songenshi-kyokai.com/living_will.html)を参照。


 これらは、法的にも過不足のない文言だが、いささか官僚的で紋切り型(であります・いたします調)の印象が強い。『やすらかな死を迎えるためにしておくこと リビング・ウイルのすすめ』(大野竜三著、PHP新書、2013年)の著書もある、愛知県がんセンター名誉総長・大野竜三さんの「リビング・ウイルと事前指示書――書き方と例文――」をインターネットで見つけたので、その「やすらかな」例文の一部を紹介しよう。大野医師は、自らのHP(https://square.umin.ac.jp/liv-will/new1009.html)で「例文をご自分のパソコンにコピーし、自分なりのリビング・ ウィルや事前指示書に修正し、印刷してから署名・捺印してください。例文PDFを直接印刷してから、署名・捺印しても、リビング・ウィルや事前指示書として使用できます。」と書いている。これを読む(ある意味で医療措置を拒否されている)医療者の心にもしっかり届く、平易な言葉でつづられた大野医師の例文を、インターネットでチェックしてほしい。

 私が、高齢となり意識を失うような状態におちいったり、あるいは、たとえ呼びかけには応じても 意識は朦朧としている状態になったり、あるいは、意識はあっても自分の意思を伝えることができない状態となり、自分で身の回りのことができなくなり、自分で飲むことも食べることもできなくなったときには、以下のようにしてください。
(※10行省略 原山注:胃ろうによる栄養補給や人工呼吸器の取り付け、昇圧薬・輸血・人工透析など、延命のための治療はやめてほしい旨の記述がある)

 私の命を長らえるために努力をしてくださっている、お医者さん、看護師さんや医療・介護スタッフの方達には、心から感謝しています。努力してくださっている方たちには、たいへん申し訳ありませんが、どうか、私の意思を尊重してください。

 私はこの終末期の医療・ケアについての私の意思表明書を、意識も清明で、書いている内容を十分理解している状態で書いています。どうか、私の意思を尊重してください。


 これから私たちが書くリビングウイル(生前の意思表明書)では、自分自身の尊厳(最期まで自分らしく生きる)だけでなく、終末期の「クオリティ・オブ・デス(安らかな死)」を懸命に支えてくれる医師や看護師、医療・介護スタッフに対するレスペクト(互尊・感謝)の気持ちを忘れずにいたいものである。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物