連載「つたえること・つたわるもの」(55)
クオリティ・オブ・デス、リビング・ウイルを考える――その2
連載 2018-12-25
出版ジャーナリスト 原山建郎
脚本家の橋田寿賀子さん(93歳)が、昨年8月に上梓した『安楽死で死なせてください』(文春新書、2017年)の表紙カバーに「人に迷惑をかける前に死に方とその時期くらい自分で選びたい」と書き、大きな話題となった。すでに「無駄な延命はやめてください。お葬式はいりません。しのぶ会もやめてください。マスコミには黙っていてください」という遺言(リビング・ウイル)を認め、周囲にもそう頼んでいるのだとか。橋田さんの「安楽死宣言」をきっかけに、「安楽死」についての大論争が起こったが、ほとんどが議論のための議論に終始した。その後、橋田さんはオランダで認められているような「安楽死」ではなく、専門の在宅医に「安楽死」に近い「自然死」が迎えられるようにお願いすることにしているという。
それぞれの意味を国語辞典で調べてみた。尊厳(そんげん)=尊く厳かなこと。気高く犯しがたいこと、安楽(あんらく)=心身がおだやかで、満ち足りていること、自然(しぜん)=人間の手の加わらない、そのもの本来のありのままの状態、自然(じねん)=自ずからそうであること、あるがままの状態、と出ている。ちなみに自然(しぜん)は、明治時代にnatureの邦訳として、それまで用いられていた仏教用語の自然(じねん)と異なる発音によって、同じ漢語(自然)を二つの意味に使い分けたものである。これらのうち、尊厳と自然(しぜん)には〈外からの介入や支援を寄せつけない〉きびしさが、そして安楽と自然(じねん)には〈その状況をありのまま受け入れる〉やわらかさがあるように思う。
なぜ、私がこんなことを言うかというと、尊厳死(そんげんし)という漢語の響き(語感)から、〈他を寄せつけない〉孤高のニュアンスを感じるからである。同じように、自然死(しぜんし)もまた、とらえ方によっては〈人間の手を加えない、そのまま放っておく〉冷たさの響きがある。また、安楽死という言葉は、橋田寿賀子さんが当初希望した積極的安楽死(致死性の薬による死。自分自身が行うときは自殺)から、消極的安楽死(一切の医学的延命措置を行わずに死を迎えること。橋田さんはこのことを「安楽死」に近い「自然死」と表現)へと気持ちを切り替えたように、かなり幅広い「死」の解釈がなされている。
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